第4部 実践

信用取引とレバレッジ

委託保証金、追証、逆日歩。損失が元本を超えるとはどういうことか。

信用取引は、証券会社に保証金を預けて、 その何倍かの金額を売買する仕組みです。 現物取引と違い、損失が預けた額を超えることがあります。 ここが決定的な違いです。

2つの方向

信用買い信用売り(空売り)
やることお金を借りて買う株を借りて売る
儲かる場面値上がり値下がり
損失の上限株価が0になるまで理論上、上限がない
コスト金利貸株料、逆日歩

空売りの損失に上限がないのは、株価に上限がないからです。買いなら株価が0になっても損は投資額まで。 売りは株価が2倍になれば損も投資額と同じ、10倍になればその9倍です。 第2部17章のオプション売りと同じ非対称性がここにもあります。

レバレッジの効き方

同じ「3割下落」でも、倍率の分だけ自己資金が削られます。3倍なら、自己資金がほぼ消えます。

追証——いちばん危険な瞬間

保証金は、建玉に対して一定の割合(委託保証金率)を保つ必要があります。 損失で保証金の比率が最低ラインを下回ると、追加で差し入れる義務が生じます。これが追証です。

  • 期限までに入れられなければ、強制的に決済されます。自分の意思とは関係なく、その時点の価格で損が確定します
  • いちばん下がったところで決済されることになりがちです。追証が発生するのは大きく下げた局面なので、構造的にそうなります
  • それでも足りなければ、不足分を支払う義務が残ります。預けた額を超える損失とは、この状態のことです

空売り固有のリスク

  • 逆日歩(品貸料)—— 株を借りたい人が多いのに貸株が足りないと、追加のコストが発生します。 金額は事前に確定せず、後から決まります。 日数分かかるため、持ち続けるほど積み上がります
  • 踏み上げ—— 株価が上がって空売りしていた人が買い戻すと、 その買いがさらに株価を押し上げます。 損失が加速する形になります
  • 権利処理—— 配当や株主優待の権利日をまたぐと、配当相当額を支払う必要があります

期限がある

制度信用一般信用
期限原則6か月証券会社が定める(無期限のものもある)
対象銘柄取引所が選定証券会社が決める
逆日歩発生する発生しない(代わりに貸株料が高め)

期限があるということは、待てないということです。現物なら「下がったが、いつか戻るまで持つ」が選べます。 信用取引では期限までに決済しなければならず、「待つ」という選択肢が制度的に消えます

使われ方

  • つなぎ売り—— 現物を持ったまま同じ銘柄を空売りして、価格変動を打ち消す使い方。 株主優待の権利取りなどで使われます
  • 下落局面での利益——現物では下がると損しかしませんが、 空売りなら利益にできます
  • 資金効率——手元資金以上の取引ができます。 これは利点であると同時に、上で見たリスクそのものです

税金

信用取引の損益は上場株式等の譲渡所得として 申告分離課税20.315%です。現物株の損益と通算でき、 繰越控除も使えます(第3部21章)。NISA口座では信用取引はできません

まとめ

  • 信用取引は保証金の何倍かを売買する仕組み。損失が預けた額を超えることがある
  • 空売りの損失には理論上の上限がない
  • 追証は下げ局面で発生する。強制決済でいちばん悪い値段になりがち
  • 逆日歩は事前に金額が確定しない
  • 期限があるので「待つ」という選択肢が消える
  • 損益は現物株と通算でき、繰り越せる。NISAでは使えない

参考文献

この章の記述は以下にもとづいています。制度は変わるので、 数字を実際に使う前に一次資料そのものを確かめてください。

  1. 官公庁No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)国税庁 タックスアンサー確認日 2026-09-07
  2. 業界団体・取引所信用取引の制度概要株式会社日本取引所グループ(JPX)確認日 2026-09-07
  3. 業界団体・取引所投資の時間(投資教育コンテンツ)日本証券業協会確認日 2026-09-07

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