第4部 実践
テクニカル分析
移動平均・出来高・オシレーター。何を見ているのか、どこに限界があるのか。
テクニカル分析は、価格と出来高の推移から売買の判断材料を作る方法です。この教科書では「何を計算しているか」と「何を意味しないか」を扱います。 個別の売買サインは示しません(売買時期の助言になるため)。
前提の違い
| ファンダメンタル分析 | テクニカル分析 | |
|---|---|---|
| 見るもの | 業績・財務・事業環境 | 価格・出来高の推移 |
| 前提 | 価格はいずれ企業価値に近づく | 価格の動きに繰り返す型がある |
| 時間軸 | 長期 | 短期〜中期 |
効率的市場仮説と正面から対立します(第1部6章)。 仮説が正しければ、過去の価格から将来を読むことはできません。 マルキールは著書でテクニカル分析に否定的な立場を取っています。一方で、実務では広く使われています。この対立が解けていないこと自体を、まず知っておいてください。
移動平均——何を計算しているか
移動平均は、 直近n日の終値の平均を毎日計算して線にしたものです。 日々の細かい上下をならして、方向を見やすくします。
- 短期(5日・25日など)——直近の動きに素早く反応する
- 長期(75日・200日など)——ゆっくり動く
移動平均は必ず遅れます。過去の平均なので、価格が転換したあとにしか動きません。 「n日の平均」という定義から避けられない性質で、欠陥ではなく仕様です。 だから移動平均だけで転換点を捉えることはできません。
出来高
出来高はどれだけの株数が売買されたかです。 価格と違い、実際に起きたことの量を表します。
- 出来高が少ないまま動いた値段は、少数の売買でついた値段です
- 板が薄い銘柄では、小さな注文でも価格が動きます(第4部25章)
- 出来高が伴わない動きは、成行で売ろうとすると滑ります。これは解釈ではなく、板の構造から来る事実です
オシレーター系
RSIやストキャスティクスなど、値動きの勢いを0〜100などの範囲に収めて表す指標があります。 「買われすぎ・売られすぎ」の目安として使われます。
「買われすぎ」は「下がる」を意味しません。強いトレンドが出ているときは、 買われすぎの状態のまま上がり続けることがあります。 指標が示しているのは過去n日と比べた相対的な位置であって、 将来の方向ではありません。
テクニカル分析の限界
3つ目がいちばん厄介です。指標の種類とパラメータの組み合わせは事実上無限にあるので、過去のデータに当てはまる組み合わせは必ず見つかります。 それが将来も働くかどうかは別の問題です。 「過去の相場で検証したら勝てた」という話は、 この点を確かめないと意味がありません。
使うなら
- 予測ではなく、ルール化の道具として使う。「この水準を割ったら切る」という損切りの基準を あらかじめ決めるために使うなら、判断のブレを減らせます(次章)
- 指標を増やさない。複数の指標が食い違ったとき、 都合の良いほうを採用してしまいます
- 記録して検証する。第4部29章のとおり、記録がないものは検証できません
まとめ
- テクニカル分析は価格と出来高から材料を作る方法。効率的市場仮説とは対立する
- 移動平均は定義上必ず遅れる。これは仕様であって欠陥ではない
- 出来高が伴わない値動きは、売るときに滑る
- 「買われすぎ」は「下がる」を意味しない。過去との相対的な位置を示すだけ
- 指標もパラメータも無数にあるので、過去に当てはまるものは必ず見つかる
- 予測の道具としてより、損切り基準のルール化として使うほうが確実
参考文献
この章の記述は以下にもとづいています。制度は変わるので、 数字を実際に使う前に一次資料そのものを確かめてください。
- 業界団体・取引所投資の時間(投資教育コンテンツ)日本証券業協会確認日 2026-09-07
- 論文(2000) Trading Is Hazardous to Your Wealth: The Common Stock Investment Performance of Individual Investors, The Journal of Finance, 55(2), 773-806The Journal of Finance確認日 2026-09-07
- 書籍ウォール街のランダム・ウォーカー(原題: A Random Walk Down Wall Street)日本経済新聞出版確認日 2026-09-07