第1部 基礎(原理)

効率的市場仮説とインデックス/アクティブ

「市場に勝つ」が難しいとされる理由と、その主張がどこまで成り立つのか。

「市場に勝つのは難しい」とよく言われます。 これには性質の違う2つの根拠があり、 混ぜて語られることが多いので分けて見ます。 ひとつは仮説で、もうひとつは算数です。

1つ目:効率的市場仮説(これは仮説)

効率的市場仮説は、 「価格には手に入る情報がすでに織り込まれている」という考え方です。 本当なら、公開情報を分析して割安な銘柄を見つけることはできません。 誰かがそれに気づいた時点で、価格が動いてしまうからです。

これが実務的に意味するのは、「みんなが知っている良い会社」と「良い投資先」は別だということです。 業績が良いことが知られている会社の株は、 その良さを織り込んだ値段になっています。

ただし、これは仮説です。市場が完全に効率的でないことを示す研究は多くあり、 実際にバブルも暴落も起きています。 「絶対に勝てない」とまでは言えません。 言えるのは「勝つのは簡単ではない」までです。

2つ目:シャープの算術(これは算数)

こちらは仮説ではなく、定義から必ず成り立つ関係です。 ウィリアム・シャープが1991年に示したもので、議論の余地がありません。

なぜ必ず成り立つのか市場にある株式は、誰かが必ず持っています。 インデックスを買う人(市場全体を持つ人)と、 それ以外の人(アクティブ)に分けると、アクティブ全体の保有は「市場全体 − インデックスの保有」になります。
つまりアクティブ全体の平均リターンは、コストを引く前は市場平均と一致します。 全員が平均より上に行くことは、定義上ありえません。
そこからコストを引くと、アクティブ全体の平均は市場平均を必ず下回ります
上の段は定義から必ず成り立ちます。下の段の差は、コストの差そのものです。

ここで言えているのは「平均」の話だけです。 個々のアクティブファンドが市場に勝つことはありますし、実際に勝つものもあります。 算術が示すのは、勝つ人がいるぶん負ける人がいるという関係と、 コストの差だけ全体が押し下げられるという点です。

それでもアクティブを選ぶ理由になりうるもの

以上を踏まえてもアクティブに意味がある場面はあります。

  • インデックスが存在しない、または使いにくい領域。 情報が行き渡っていない市場では、調べることに価値が残る余地があります
  • 指数の作りが目的と合わない場合。 時価総額で重みづけした指数は、値上がりした銘柄の比重が自動的に大きくなります。 これを避けたい人はいます
  • 下落局面での振れ方を変えたい場合。 指数をそのまま持つのとは違う振る舞いを求める考え方です

「過去に勝ったファンド」を選べばよい、とはなりません。過去の成績が将来も続くかどうかは別の問題です。 目論見書に「過去の運用実績は将来の運用成果を保証するものではありません」と 書かれているのは、形式的な但し書きではなく、実際にそのとおりだからです。

この教科書での扱い

どちらを選ぶべきかは書きません。個別商品の推奨にあたりますし、判断は目的とリスク許容度で変わります。 代わりに、判断するときに使える形で整理しておきます。

インデックスアクティブ
狙い指数と同じ動きをする指数を上回る
コスト低いものが多い調査・運用の分だけ高くなりやすい
結果のばらつき小さい(指数に連動する)大きい(上にも下にも外れる)
確かめ方指数との乖離が小さいかコストを引いたあとで指数を上回っているか、長い期間で

まとめ

  • 「市場に勝てない」には仮説(効率的市場仮説)と算数(シャープの算術)の2つがある
  • 効率的市場仮説は仮説であり、市場は完全に効率的ではない
  • シャープの算術は定義から必ず成り立つ。アクティブ全体の平均は、 コストを引くと市場平均を必ず下回る
  • ただしこれは平均の話で、個々のファンドが勝つことはある
  • 過去に勝った実績は、将来も勝つことを意味しない

参考文献

この章の記述は以下にもとづいています。制度は変わるので、 数字を実際に使う前に一次資料そのものを確かめてください。

  1. 官公庁投資の基本金融庁確認日 2026-09-07
  2. 論文Sharpe, W. F.(1991) The Arithmetic of Active Management, Financial Analysts Journal, 47(1), 7-9Financial Analysts Journal確認日 2026-09-07
  3. 書籍バートン・マルキールウォール街のランダム・ウォーカー(原題: A Random Walk Down Wall Street)日本経済新聞出版確認日 2026-09-07
  4. 書籍ジョン・C・ボーグルインデックス投資は勝者のゲーム(原題: The Little Book of Common Sense Investing)パンローリング確認日 2026-09-07

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